12.盗賊が棲む森

 コータが“ハオハオの森出口”から外に出ると、そこはふつうの森でした。“幸せの森”のように明るく美しい森ではないし、“不幸の森”のように昼間でも薄暗い深い森でもありませんでした。
 コータは帰り道を歩きながら、思いました。
(行きの“幸せの森”の中に落ちていた、“風を感じる幸せ”と“散歩を楽しむ幸せ”の赤いリンゴは、きっとあの“幸せのモージャ”のおじいさんが道の上に置いてくれたんだ)
(行きの“不幸の森”の中で、“ひどい父親をもった不幸”と“寂しい不幸”の青いリンゴを食べてもあまり不幸な思いをしなくてすんだのは、あのおじいさんが半分食べてくれたからだ)
(もう一度“幸せのモージャ”のおじいさんに会って、お礼が言いたい。それに聞いてみたいことがある)

 その時、突然、道のわきに立ち並んだ木の陰から、ゾロゾロと男たちが出てきて、コータをとり囲みました。その六人の男たちは、この森に棲む盗賊でした。
 コータが驚いて立ちすくんでいると、正面の男が言いました。
「背中のリュックサックをこっちに渡せ。さもない痛い目に会うぞ」
(どうしよう? 困ったなぁ。そうか、悪いことはハオハオ、しかたがない)と思い、コータはリュックサックを黙って差し出しました。
「ヨシ、いい子だ。おとなしく言うことを聞けば、すぐに帰してやるからな」
 そう正面の男が言うと、その隣にいた男がコータのリュックサックを引ったくると、あけて中をのぞき込みました。
「なんだ、小さいリンゴが二つしかないぞ。それも一つは青いヤツで売り物にならないぜ。それに他にめぼしい物は何も持ってないぞ」
「そうか、しかたがないな。赤いリンゴ一つだけをいただいて、あとは返してやれ」

「ちょっと、待った!」後ろにいた男が言いました。
「なんだ、どうかしたのか? 新入り」
「ヘイ、お頭(かしら)。オレは知ってるんだ。コイツは白いフクロウに“幸せの魔法”を教えてもらったんだ。オレはあのでかい木の、高い枝の上から見てたんだ。コイツが白いフクロウから魔法の巻物をもらうところを」
 すると、お頭と呼ばれた正面の男が、コータに向かって言いました。
「オイ、小僧。どんな魔法を白いフクロウから教えてもらったんだ? その魔法の呪文を教えてもらおうか」
「えっ、そんなのボク知りません」
(言ったら、死んじゃうじゃないか)とコータは思いました。
「そうか、最初はみんなそう言うんだ。ヨシ、アジトに連れて行け!」
 二人がコータの肩を両側から押さえ、一人がコータの腕を後ろに回すと、両方の手首をいっしょにロープで縛りました。
 コータは何もできずに、なすがままになっていました。

「ヨシ、一度引き上げるぞ」と、お頭が言い、森の中へ向かって歩きだすと、みんながついて行きました。
「行くんだ」と、後ろにいるロープの端を持った男に言われ、コータもしかたなく後をついて歩いて行きました。

 そんな様子を、少し離れた所に立っている木の枝の上から、黙って見守っていたのは、“幸せのモージャ”のおじいさんでした。
 盗賊たちとコータの行方を見守ると、おじいさんは木の枝から下りて、少し急ぎ足で歩いて、“幸せリンゴ配給所”の建物の中に入って行きました。

 コータは盗賊につかまって、森の中のアジトに連れていかれました。
 そこには丸太小屋が二つと、丸太を組んで造ったオリが一つありました。
 小屋の前につくと、盗賊のお頭が言いました。
「そいつのロープをほどいてやりな」
「ヘイ」と、ロープの端を持った男が言い、コータの腰のベルトにつけていたナイフを取りあげてから、コータの両手をしばったロープをほどきました。
「小僧、魔法を教える気になったか?」
「ボク、魔法なんか知りません」
 コータは小さい声で答えました。
「そうか、しかたがないな。あまり手荒なことはしたくないんだが・・・」

 その時、一人の男がアジトに向かって走ってきました。
「おかしらー、おかしらー」
「どうした? 何かあったのか?」
「赤いリンゴをたくさん積んだ荷車が出てきたんでさぁ」
「赤いリンゴを積んだ荷車だと?」
「ヘイ、“ハオハオの森”の出口から、赤いリンゴがいっぱい入った箱を五つも積んだ荷車を、ヘンなじいさんが引いて出てきたんでさぁ」
(“幸せのモージャ”のおじいさんだ)と、コータは思いました。
「ヘンなじいさん? そいつ一人か?」
「ヘイ、一人です」
「そうか。ヨシ、じゃあ先回りしてリンゴを全部いただくことにするぞ。その小僧はオリの中に入れておけ。お前は残って見張ってろ。あとの者はみんな行くぞ」
 盗賊たちは、見張りの一人を残して、みんな行ってしまいました。

 コータは、オリの中に入れられ、カギをかけられてしまいました。
 オリは太い丸太で頑丈にできていて、コータが押しても引いてもビクともしません。オリの下のほうにも上のほうにも抜け出せそうなすき間はありませんでした。
 コータは逃げる出す方法はないかと考えましたが何も思いつかずに、オリの中の片すみに座り込んでしまいました。
(“幸せのモージャ”のおじいさんは大丈夫かなぁ)と、コータはふと思いました。
 それからは、先のことが心配になってしかたがありませんでした。
(どうしよう、早く逃げ出して帰らないと、おばあちゃんが死んじゃう。おばあちゃんがいなくなったら、ボク一人ぼっちになっちゃう)
 それでもそのうちに、コータはすごく眠くなってきて、いつのまにか横になって眠り込んでしまいました。

 コータは悪い夢を見ました。
 家に帰りつくと、おばあちゃんは死んでしまっていたのです。コータは悲しくて悲しくて、大声をあげて泣いてしまいました。そして、間に合わなかった自分が情けなくて情けなくて、さらに激しく泣いてしまいました。
 夢の中で同じ場面が何度も繰り返されました。

 コータが目を覚ますと、もう陽はだいぶ西に傾いていました。
 コータは夢の中の出来事を思いだして、考え直しました。
(おばあちゃんが死んでしまったことは、ハオハオ)
(すごく悲しかったのは、ハオハオ)
(泣いてしまったのも、ハオハオ)
(自分のせいだと思ってしまったのも、ハオハオ)
 そう考えようと思ったのですが、なかなかそうは思えませんでした。
(どうして、ハオハオって思えないんだろう?)
(まだ魔法の使い方が上達していないってことなのかなぁ)
 そうコータは思いました。
(でも、なんでこんなに悲しくて苦しんだろう?・・・)
(そうか、おばあちゃんのことが大好きで、すごく愛しているからだ)
 コータは、そのことに気づき、また、もう一つのことに気づきました。
(お母さんが病気で死んでしまってから、お父さんが変わってしまったのも、お父さんがお母さんのことをすごく愛していたからに違いない。だから、あんなにお酒を飲むようになってしまったんだ)

 陽が暮れてきて、盗賊たちがアジトに帰ってきました。
 見張りの男が仲間を出迎えて言いました。
「お頭、首尾のほうは?」
「おう、上々だ。ほれ見ろ!」と、お頭は肩にかついでいた袋を、片手で高くかかげました。
「こんなにいっぱい赤いリンゴが手に入ったぞ」
 他の男たちも、自分の袋をかかげて見せました。
「すげぇなー。これだけありゃあ、一年ぐらいは遊んで暮らせるんじゃねぇですか。ところで、じいさんは?」
 すると、帰ってきた男たちが順番に言いました。
「いや、じいさんも荷車も一度も見なかったぞ」
「道から向こう側の森の中へリンゴが点々と落ちてて、森の中にもリンゴが離ればなれにばらまいてあったんだ」
「いやー、探し回るのが大変だったんだから」

 お頭が言いました。
「ヨシ、残っている肉を全部焼いて食っちまおう。あした町に行って、金持ちのやつらに“幸せのリンゴ”を売って、帰りにいっぱいうまいものを買ってくるからな。今晩は久しぶりにいっぱい食って飲んで騒いでいいぞ」
「わーい」「ヤッター」「ヤッホー」
 みんな歓声をあげて、宴会のしたくに取りかかりました。

 お頭が見張りの男に聞きました。
「オイ、あの小僧はおとなしくしてたか?」
「ヘイ、昼間はずっと、グーグー寝てましたんでさぁ」
「ほう、臆病そうに見えてけっこう図太いんだな」
「いやー、まだ子供なんでさぁ」
「まぁいいさ。今晩はこのまま放っとけ。あしたの朝になれば、腹がすいてしかたがなくなって、しゃべるだろう」
「ヘイ」

 肉を焼いたいい匂いがオリの中まで漂ってきました。
 コータは急にお腹がすいてきてしまいました。
(どうしたらいいんだろう? このオリから逃げ出すことはできそうもないし。このオリから出してもらうためには、魔法の呪文を教えなくちゃいけないし。魔法の呪文を教えたら死んじゃうし。でも、このままだとお腹がすいて死んじゃうし。おばあちゃんも助けられない)
 コータは、悪いことばかり考えて、絶望しそうになってしまいました。

 さっきまで騒いでいた盗賊たちは、みんな丸太小屋の中に入って眠ってしまったようで、あたりはまっ暗になり、森の中は静まりかえっていました。
「ホープくん、助けて」
 コータはかすかな声でつぶやきました。
 でも、ここはもう“ハオハオの森”の中ではありません。ホープが姿を現すわけがありません。
(そうか、ホープくんが言ってた。どんな時でも希望をもたないといけないって。希望をもって頑張れば道は開けるって)
 コータは希望がもてることを考えようとしました。
(ここから抜け出す方法が何かあるはずだ。いつかきっとそのチャンスがくる。お腹がすいたってそう簡単に死にはしないさ。まだ間に合わないって決まったわけじゃないんだ。あきらめずに最後まで頑張ろう)
 そんなふうに考えたら、少しは元気が出てきました。

 その時、何かがころがってきて、コータの足にあたりました。手でさぐると、丸い物がありました。それはリンゴだと、手ざわりでわかりました。
(あっ、“幸せのモージャ”のおじいさんだ!)
 コータはあたりを見回しましたが、まっ暗で何も見えませんでした。
「おじいさーん」と小さい声で呼びましたが、何も答えは返ってきませんでした。
 コータはリンゴを両方の手のひらでよくこすってからかじりました。すごく甘いリンゴでした。
 おいしくて、うれしくて、それに少しホッとして、コータの目には涙があふれてきました。

 コータの頭の中に、見慣れた風景が浮かんできました。
 コータの家の裏にある原っぱです。そこにいるのは、七、八歳ぐらいのコータとお父さんのようでした。二人は仲良さそうに話をしながら、原っぱの先にあるコナラの木に向かって歩いて行きました。
 子供が先にその木に登り、お父さんがあとから登っていきました。二人がたどりついたのは、木の上の秘密基地でした。

 コータは、十歳の時にはじめてその木に登り、秘密基地を発見したのでした。そこは二本の枝の上に板を渡してあり、大人が寝転がれるぐらいの広さがありました。
 それからは、コータはひとりでつまらなくなると、その秘密基地に登って、遠くの景色を眺めたり、昼寝をしたりしていたのでした。

 コータは秘密基地の上にいる二人の姿をうらやましく思いました。
(いいなぁ。ボクはいつも一人だった。お父さんといっしょに登りたかったな)
(そうか。これは“幸せのモージャ”のおじいさんの幸せだったんだっけ。おじいさんは自分のお父さんと遊んで幸せだったのかなぁ)
(あっ、違う。きっとおじいさんには子供がいるんだ。さっき食べたのはきっと“子供がいる幸せ”のリンゴだったんだ)
(自分の子供といっしょに遊んだら、きっと幸せなんだろうなぁ)
 コータはいつのまにか眠ってしまいました。

 コータは森の中を必死に走っていました。
(きょう中に、家に帰り着かないと)
 でも、身体は思うように進みません。まるでスローモーションのようです。気もちばかりがあせってしまいます。
 それでもやっと、森を抜けて川が見えてきました。
 その時、川原にポニーが立っているのが見えました。
(好!好! ずっとボクを待っててくれたんだ)
 コータは喜んで走っていき、ポニーの首に抱きつきました。

 ポニーはお腹がすいているのか、元気がありませんでした。
 そこでコータは、リュックサックの中から“生きている幸せ”の赤いリンゴを取り出すと、ポニーに食べさせました。
 するとどうでしょう。ポニーは急に元気になり、首を大きく上にそらしたと思うと、なんと背中から白い大きな翼が一瞬にしてはえてきました。
 コータはビックリしましたが、喜んでポニーの背中にまたがりました。
 すると、ポニーは川のほうに向かって駆けだし、川の直前で地面を強くけると、翼を大きくはばたかせて飛び立ったのです。

 コータを乗せたポニーは、だんだん空高く上がっていき、緑の草原の上を三子山のほうに向かって飛んで行きました。
 二つの小さな山の上を越え、コータの家がある村を目指して、どんどん飛んで行きました。
 あっという間に村が近づき、コータの家が見えてきました。
 そして、コータを乗せたポニーはついに家の前に降り立ちました。

 コータはポニーから飛び降りると、家の中にかけ込みました。
 おばあちゃんのベッドの横に行き、「おばあちゃん」と呼ぶと、おばあちゃんがうっすらと眼をあけて微笑みました。
「今ボクがおばあちゃんのプーハオ病を治してあげるからね」
 そうコータが言うと、おばあちゃんは眼をとじました。
「プーハオは好好!」
 コータが魔法の呪文を言って少したつと、おばあちゃんはパッチリと眼をひらきました。

 近所の人たちが、コータの到着を知って集まってきました。
 おばあちゃんが着替えてからみんなの前に歩いて姿を現すと、歓声があがりました。
「病気が治ったんだ」「ヤッター」「コータが魔法で治したんだ」「コータ、よくやったぞ」「コータはすごくいい子だ」・・・

 コータがオリの中で目を覚ますと、もう朝でした。
(何としても早く帰らなければ。早く帰るためには、このオリから出してもらわないと。そのためには、魔法の呪文を盗賊に教えないといけない。でも、“幸せを感じられる魔法”の呪文を教えたら、ボクが死んじゃう。魔法の呪文を教えないとここから出られないから、おばあちゃんが死んじゃう。今すぐにここから出られれば、“プーハオ病を治す魔法”でおばあちゃんを助けることができる)

 コータはいっしょうけんめいに考えました。
(そうだ! 盗賊に“プーハオ病が治る魔法”を教えればいいんだ。おばあちゃんの病気を治すために“ハオハオの森”に来たことを話せばいいんだ)
(ちゃんと説明すれば、あのお頭ならわかってくれるかもしれない。白いフクロウから教わったのは、本当は“幸せを感じられる魔法”だけど、“プーハオ病を治す魔法”を教わったってウソを言っても、白いフクロウとホープくん以外にはわかるわけがない)
(何としても早く帰らなくちゃ。だから、ウソをつくのもしかたがないんだ)

 そう考えたコータは、オリのそばを通りかかった盗賊の一人に声をかけました。
「おじさん! ボク、魔法を教えるから早くオリから出してください。早くしないとおばあちゃんが死んじゃうんです」
 コータに声をかけられた盗賊がオリの近くに歩いてきて言いました。
「そうか。魔法の呪文を教える気になったか。よしよし。でも、夕方まで待ちな。ついさっきお頭は町へ出かけちゃったんだ。お頭がいいと言わなければ、お前をオリから出すわけにはいかないんだ」
「え、そんな・・・。夕方じゃあ、間に合わなくなっちゃうよ」
「何言ってんだ。お前がきのう、素直に魔法の呪文を教えてれば、こんなオリに入れられることもなかったんだぞ。自業自得だな。とにかく、お頭が帰るまでおとなしく待ってるんだ。じゃあな」
 そう言うと、その盗賊は行ってしまいました。

 コータはどうしたらいいのか、まったくわからなくなってしまいました。
(あー、もうダメだ)
 コータはオリの中で座り込んでしまいました。
 もう何も考えられずに、ただボーとしてしまいました。

 その時、「おーい、おーい」と叫びながら、見張りの男がアジトに向かって走ってきました。
 残っていた盗賊たちがみんな小屋の前に出てきました。
「おーい。また赤いリンゴをたくさん積んだ荷車が出てきたぞ」
「おう、そうか。じゃあ、すぐにみんなで行こうぜ」
「おう! きょうこそは荷車ごとひっつかまえてやる」
「よし、行こう!」
「じゃあ、オレはまたここで見張りをしてるから、しっかりやってきな」
 見張りの男を残して、盗賊たちは走って行ってしまいました。

(“幸せのモージャ”のおじいさんだ!)
 そう思うと、コータの心の中には、また希望がわいてきました。
(そうだ、最後まで希望をもたなくちゃいけなかったんだ。そうだよね、ホープくん!)
 心の中でそう言うと、ホープくんが(好好)と答えたような気がしました。

 コータは希望をもてるように考えました。
(“幸せのモージャ”のおじいさんがボクを助けに来てくれるに違いない)
(そうすればこのオリから出られるんだ。今から帰ればまだ間に合うかもしれない)
(もし、ポニーが川の所で待っていてくれたら、あさってまでに帰れる)
(それに、おばあちゃんがプーハオ病にかかってから二十日後に必ず死ぬとは限らない)
(帰ってみなければわからないんだ。最後まであきらめるのはよそう)

 コータは今自分に何ができるかを考えました。
 そして、“幸せを感じられる魔法”の練習をすることにしました。
(今はまだオリの中だけど、ハオハオ)
(お腹がすいているわけでもない、好好。どこかが痛いわけでもない、好好)
(かすかに風が吹いてきた、好好。太陽はやさしく輝いている、好好)
(ここは緑の森の中だ、好好。今自分は静かに座っているだけだ、好好)
 コータは、なぜか落ちついている自分に気づき、
「好好だよ」と、つぶやきました。

 それからも、つい悪いことを考えてしまいそうになりましたが、コータは“いいことは好!好! 悪いことはハオハオ”と考えるように、いっしょうけんめいに心がけました。
 そして、コータは思いました。
(もし、今“幸せを感じられる魔法”を知らなかったら、ボクはどうなっていたんだろう?)

 太陽が南の空の真ん中を通りすぎて少したった頃、小屋のほうからドタバタする音が聞こえてきました。
「コータ、大丈夫じゃたっか?」
 オリの前に現れたのは、“幸せのモージャ”のおじいさんでした。
 おじいさんは、右手にはオノを、左手にはコータのリュックサックを持っていました。
「今助けてやっからな。ちょっくらさがってよけてくれや」
 コータがオリの中のスミに行くと、おじいさんはリュックサックを置いて、オリに近づきました。オリの真ん中に立っている丸太に向かい、オノを両手で持って右肩の上に構えると、斜め上からトン、トン、トン、真横からトン、トン、トン、また斜め上からトン、トン、最後に大きく振りかぶってオノを振るうと、トーンと丸太は見事に切れました。
 おじいさんはオノを横に放ると、上からぶらさがった丸太を両手で押しのけて、言いました。
「さぁいいぞ。ここから出るんじゃ」
 コータはオリから出ると、おじいさんの右手を両手で握って、
「おじいさん、ありがとう、ありがとう」と言い、涙を流しました。
 おじいさんは左手でコータの背中を軽くたたきながら、
「よし、よし。よし、よし」と言いました。

「じゃあ、逃げるとしようか」
「うん」
 コータはおじいさんの手を離して、自分のリュックサックを拾いました。小屋のほうを見ると、見張りの男が両手両足を縛られて地面に転がっていました。大声を出せないように、口の所は布で縛ってありました。
「よし、こっちじゃ」と言うと、“幸せのモージャ”のおじいさんは、道がない森の中のほうへ歩いて行きました。コータは黙ってついて行きました。


    『幸せの魔法』目次

ハオハオの森

幸せのホームページ