5.不幸リンゴ配給所

 コータが不幸リンゴ配給所の中に入ると、左側に受付があって、カラスが二羽いました。
 一羽のカラスが、コータに向かって言いました。
「では、簡単に説明いたします。この不幸リンゴ配給所では、あなたが申請した不幸の数だけ、青いリンゴを配給いたします。リンゴを一つ食べると、丸一日、お腹も減らないし、のどもかわかないのは、赤いリンゴと同じです。また、魔法を教えてもらうためには、白いフクロウに赤いリンゴといっしょに青いリンゴも一つ届けなければなりません」
 すると、もう一羽のカラスが、
「では、この紙に自分の不幸を書いてください」と言い、一枚の紙をくわえて差し出しました。
 コータが紙を受けとると、そのカラスが言いました。
「あなたの後ろに、机が並んでいますので、好きな所に座って書いてください。書き終わったら、その紙を持って奥の部屋に行ってください。そこには、青いフクロウがいて、あなたの不幸を確認してから、その数だけ青いリンゴを渡します。以上です」

 コータが振り返ると、机とイスが九組、三列に並んでいましたが、そこには誰もいませんでした。
 コータは、左側の列の真ん中の机の所に歩いて行き、紙を机の上に置いて、イスに座りました。机の上には、鳥の羽でできたペンとインクビンがありました。

(何から書こうかな?)
 コータは少し考えてから、ペンを持ち、インクビンのフタを開けました。ペンの先をビンの中の黒いインクにチョンチョンとつけると、紙に“貧しい不幸”と書きました。そのまま続けて、二つの不幸を書き加えました。
 それから、コータはまた考え始めました。

 後ろのほうから人が歩いてくる気配がしたので、コータが首を右に向けると、“幸せのモージャ”のおじいさんが、コータが座っている所から一つ机をおいた通路を歩いてきました。
 おじいさんは、コータと目が合うと、笑いながら二度うなずき、
「じゃあ」と言って、そのまま歩いて部屋の前の出口から出て行ってしまいました。

 コータはあっけにとられて出口のほうを見ていましたが、
(そうか、この前のボクと同じなんだ。あのおじいさんには不幸がないんだ、きっと)と思いました。
 コータは“幸せのモージャ”のおじいさんのことが気になりましたが、また自分の不幸について考え始めました。
 それから、あと二つの不幸を紙に書くと、コータは席を立ち、紙とリュックサックを持って、その部屋から出て行きました。

 ろうかがあってその先の入口を入ると、そこはまた裁判所のような部屋でした。前の大きな机の所には、青緑色をしたフクロウがいました。部屋の中には、他に誰もいませんでした。
 青いフクロウがコータに言いました。
「そのままこっちへ来て、座ってください」
 コータは階段を降りて、青いフクロウの前にある小さな机の所に歩いて行き、イスに座りました。

「では、聞きます。あなたの最初の不幸はなんですか?」
 コータは、机の上に置いた紙をチラッと見てから、言いました。
「貧しい不幸です。ウチは貧しかったから・・」
「ハオハオ、よろしい。説明は要りません」と、青いフクロウがコータの話をさえぎりました。
「はい」と、コータは小さい声で言いました。
「ハオハオ。その代わり、あとで青いリンゴをよく味わって食べなさい」
「はい」と、コータはまた小さい声で答えました。

「では、あなたの次の不幸はなんですか?」
「はい、母親がいない不幸です」
「ハオハオ、よろしい。では、あなたの次の不幸はなんですか?」
「はい、ひどい父親をもった不幸です」
「ハオハオ、よろしい。では、あなたの次の不幸はなんですか?」
「忙しい不幸です」
「ハオハオ、よろしい。では、あなたの次の不幸はなんですか?」
「寂しい不幸です」
「ハオハオ、よろしい。では、あなたの次の不幸はなんですか?」
「もう、ありません」
「ハオハオ、よろしい。では、出口のほうに行ってください。青いリンゴを渡しますから」
「あっ、はい、ありがとうございました」

 コータは、席を立つと、部屋の左側の出口に向かって歩いて行きました。
 青いフクロウがいる部屋を出て、ろうかを通って次の部屋の入口を入ると、そこにガイドのフクロウのホープが立っていました。
「あっ、ホープくん」
「ハオハオ。では、こちらへ」と言うと、ホープはピョンピョンはねて、四つのテーブルが四角に離して置いてあるほうに行きました。ホープは右奥のテーブルの向こう側のイスの上に乗ると、
「こちらに座ってください」と言いました。
 コータは、あとをついて行き、ホープの前に座りました。

「ハオハオ。よくここまできましたね」
「食べるものがなくなっちゃって、お腹がすいてたいへんだったんだけど、赤いリンゴが道に落ちていて助かったんです。それも二つも。あれ、もしかして、ホープくんが置いといてくれたの?」
「ハオハオ、ガイドはそんなことはしてはいけないのです。私ではありません」
「ふーん」
 コータが考えていると、後ろのほうから一羽のカラスがトコトコと歩いて来て、コータたちのテーブルの横に立ち、
「これがあなたに配給される“貧しい不幸”のリンゴです」と言って、テーブルの上に一つの青いリンゴを置きました。
「ご苦労さま」とホープが言うと、カラスは一度肯いてから、ピョンピョンはねて戻っていきました。

 テーブルの上に置かれた薄い青緑色のリンゴには、白い文字で“貧しい不幸”と書いてありました。
「ハオハオ。何か聞きたいことがありますか?」
「青いフクロウが『あとで青いリンゴをよく味わって食べなさい』って言ってたけど、どういう意味?」
「ハオハオ。赤いリンゴと同じように、青いリンゴを食べると、その不幸を想い出すことになります。幸せになるためには、自分の不幸についてよく考えてみることも大事だということではないでしょうか」
「ふーん」と言いましたが、コータにはどういう意味かよくわかりませんでした。

 そこにまた、カラスがやってきてさっきと同じように、“母親がいない不幸”と“ひどい父親をもった不幸”の二つ青いリンゴをテーブルの上に置いていきました。
 見ると、“母親がいない不幸”のリンゴは“貧しい不幸”のリンゴよりちょっと小さいぐらいでしたが、“ひどい父親をもった不幸”のリンゴは他の二つのリンゴの倍ぐらいの大きさでした。
「どうして、リンゴの大きさが違うの?」
「ハオハオ。リンゴの大きさは、その人が不幸だと思っている強さによって違います。不幸の大きさがリンゴの大きさだと思っていいでしょう」
「ふーん」と言いながら、コータは三つのリンゴを見比べていました。
 そこへまたカラスがやってきて、“忙しい不幸”と“寂しい不幸”の二つの青いリンゴをテーブルに置いていきました。
 この二つのリンゴは、“貧しい不幸”のリンゴと同じぐらいの大きさでした。

「何か他に聞きたいことはありますか?」
「あのー、“幸せのモージャ”のおじいさんは、あんなにたくさんの幸せがあって、不幸が一つもないのに、どうしてこの森から帰れなくなっちゃったの?」
「ハオハオ。あのおじいさんは“すごい幸せ”を求めてばかりいるのです。はじめの頃は、白いフクロウに“いつでもすごく幸せになれる魔法”とか“永遠に幸せでいられる魔法”とかを教えてもらおうとして、ことわられました。最近では、“すべての人が幸せになれる魔法”を望んだそうです」
「それは幸せになれる魔法じゃないの?」
「ハオハオ。そんなことは不可能なのでしょう。もしそんな魔法があったとしても、本当に幸せにはなれないのかもしれません」
「どうして?」
「ハオハオ。私にも確かなことはわかりません。白いフクロウにはわかっているのでしょう」

 そこへまたカラスがやってきて、
「これがあなたに配給される“生きている不幸”のリンゴです」と言って、小さい青いリンゴを一つ置いて戻って行きました。
「“生きている不幸”の青いリンゴ? “生きている幸せ”の赤いリンゴもあるのに、・・・。どうして?」
「ハオハオ。それは自分でよく考えてみてください。では、行きましょうか」と言うと、ホープはイスから下りて、左奥の出口のほうへピョンピョンはねて行きました。
 コータは、あわてて六つの青いリンゴをリュックサックの中にしまうと、ホープのあとを追いかけて行きました。

 出口の上には『ハオハオの森入口』と書いてありました。
 ホープがそのまま外に出て行ったので、コータも外に出ました。
 そこは、大きい木がいっぱいはえていて、昼間なのに薄暗い感じがする深い森の中でした。

    『幸せの魔法』目次

ハオハオの森

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