4.幸せの森

 コータはホープに続いて、“好好の森(幸せの森)”に入りました。
「ハオハオ。私はいつでもあなたのそばにいますから、何か聞きたいことがあったら、名前を呼んでください。では」と言って、ホープは近くの木の上のほうへ飛んで行ってしまいました。
 コータは、突然のことにあっけにとられ、一人でボーっと立っていました。

 すると、そこに荷車を引いたおじいさんがやってきました。
 そのおじいさんは、コータのところに来て、
「よかったら、ワシのリンゴをもらってくれんかな?」と言いました。
 見ると、荷車の上の五つの箱には、大きな赤いリンゴが山盛りになっていました。よく見ると、食べられる幸せ、学べる幸せ、遊べる幸せ、歩ける幸せ、目覚めの幸せ、太陽を感じる幸せ、雨の恵みの幸せ、夕焼けを見られる幸せ、好きなことができる幸せ、自由の幸せ、考えられる幸せ、生まれてきた幸せ、不幸でない幸せなどと書いてあるリンゴがありました。

「これ全部、おじいさんの幸せなの?」
「そうじゃよ。多すぎて運ぶのもたいへんなんじゃ。じゃから、少しもらってくれんかな?」
 コータは、ちょっと考えてから、
「ボク、いいです。パンとチーズをいっぱい持ってますから」と言いました。
「そうか。よし、よし。じゃあな」と言って、おじいさんは荷車を引いて行ってしまいました。
 コータは、おじいさんが離れて行くのを見ながら、
(一つぐらいもらってあげればよかったかなぁ)と思いました。

 コータは、急にお腹がすいてきました。
 そう言えば、きょうは朝から何も食べていないことに気がつきました。
 太陽の位置を見ると、もうお昼は過ぎているようでした。
 コータは、日陰になっている木の下に行き、草の上に座ってリュックサックを開けました。
 チーズを取り出し、その下からパンを取り出した時に、驚きました。
 パンの下半分に黒いカビがいっぱいはえていたのです。
 あわててリュックサックの底に入っているまだぜんぜん食べていないパンの固まりを取り出すと、全体に黒いカビがはえていました。それに、下のほうは水を吸ってグチャグチャになっていました。
「そうか、川を渡った時に水がいっぱいしみ込んでしまったんだ」
 コータは、一瞬、目の前がまっ暗になったような気がしました。
 その時、ゴロゴロゴロと、遠くで雷が鳴りました。

(さっき、あのおじいさんからリンゴをもらっておけばよかったなぁ)と、コータはふと思いました。ハッとして、頭を上げ、道の先を見ると、遠くにあのおじいさんの荷車が小さく見えました。
 コータは、急いで、リュックサックの内側を引っ張ってひっくり返すと、中のパンくずをはたき落としました。リュックサックを元に戻して、中に毛布をつっこんでから、その上にチーズを入れました。
 そして、リュックサックを手に持つと、走り出しました。
 走ったら、あっという間に、荷車に追いつきました。
 リンゴをたくさん積んだ荷車は、道の端に置いてありました。
 コータが荷車の近くを見ると、そこにおじいさんの姿はなく、小太りのおじさんが座っていました。そのおじさんは、コータに気づくと、立ち上がりました。

「あのおじいさんは?」とコータが聞くと、
「もう先に行ったよ」とそのおじさんが答えました。
「ボク、さっき、あのおじいさんから、赤いリンゴをもらってくれないかって言われたんです」
「そうなんだよ。あのじいさんは変わり者で、自分の幸せのリンゴをタダで配っちゃうんだ。みんな、あのじいさんのことを“幸せのモージャ”って呼んでいるんだよ」
「幸せのモージャ? “モージャ”ってなんですか?」
「うーん・・・。そういうめんどうな話は、ガイドのフクロウに聞きなよ。それより、坊やはきょう外から来たんだろ?」
「はい」
「じゃあ、お金を持ってるだろう。このリンゴを買わないかい?」
「この幸せのリンゴは、あのおじいさんのものじゃないんですか?」
「そうだよ。でも、オレがじいさんから全部もらったんだから、今はオレのものさ。じいさんのリンゴは大きくておいしいよ。それに食あたりもしないしね」
「食あたり?」
「ああ、幸せのリンゴを食べるとその幸せが頭に浮かぶんだ。人の幸せを見るとうらやましくてしょうがない人は、人の幸せのリンゴを食べると食あたりしちゃうんだ。でも、あのじいさんの幸せはそこらにあるものばかりだから大丈夫さ。安くしてあげるから、買いなよ」
「ボク、お金持ってないんです」とコータは言いました。
 おじさんは、コータの身体を上から下まで見ると、言いました。
「じゃあ、その腰のベルトにつけているナイフとリンゴを交換しようか?」
「これはダメです。おばあちゃんからもらったナイフなんです」
 おじさんはナイフをじろじろ見てから、言いました。
「だいぶ古いやつじゃないか。それにこの森の中ではナイフなんて使う必要ないんだから」
「これは前から家にあったナイフで、大切なものだって、おばあちゃんが言ってたから、このナイフだけは絶対にダメです」
「そうかい。じゃあいいよ。だったら、商売のじゃまだから、どっかへ行ってくれ」と、小太りのおじさんはちょっと怒ったように言いました。

 コータは、しかたなく、道の先のほうへ歩いて行きました。
 空が急に雲ってきて、今にも雨が降りだしそうでした。
 コータは少し歩くと、道の端に立ち止まり、
「ホープくーん!」と空に向かって呼びました。
「ハオハオ」と近くで声がしたので、見ると、すぐそばの木の枝にホープが止まっていました。ホープは、ピョンとコータのすぐ隣に飛び降りました。

「何か聞きたいことがありますか?」
「持って来たパンがくさっちゃって、食べ物が少ししかなくなっちゃったんです。どうしたらいいんでしょうか?」
「ハオハオ、それは困りましたね。でも、それは自分で考えないといけないことなんですよ」
「この森の中で、食べ物がなくなったら、死んじゃうの?」
「ハオハオ。この森の中で飢えて死んだ人はいません。“ギブアップ”すればいいんです。私に“ギブアップする”って言ってくれれば、すぐにオオタカを呼んであげますから。オオタカがキミをこの森の外まで、空から運んでくれるので、大丈夫ですよ」
「ふーん。でも、もうチーズが半分ぐらいしか残っていないし、どうしよう」と、コータは小さい声で言いました。

 ホープは、黙ってコータを見ていましたが、言いました。
「キミは、なんのためにこの森に来たんだい。キミの望みは何なのかな?」
「白いフクロウに幸せの魔法をどうしても教えてほしいんです」
「ハオハオ。では簡単にあきらめないで、行ける所まで行ってみて、ダメならそこでギブアップすればいいんじゃない? 本当は、ガイドはこんなことを言ってはいけないんだけど」
 コータは、それしかないと思い、
「じゃあ、そうします」と言いました。

「ハオハオ。他に何か聞きたいことはありますか?」
「“モージャ”ってなんですか?」
「ハオハオ。“モージャ”というのは、何かにとりつかれてこの森から出られなくなってしまった人のことを、そう呼ぶようになったのです。あそこで、幸せのリンゴを売っている男の人は、“金(かね)のモージャ”と呼ばれています。お金を手に入れることにとりつかれてしまって、この森から出られなくなったのです。この森の中には、そういうモージャがたくさんいます」
「ふーん」とコータは言いました。
「他に何か聞きたいことはありますか?」
「とりあえず今はもういいです」
「ハオハオ、では」
 ホープはまた木の上のほうへ飛んで行ってしまいました。
 薄暗くなった空からは、雨がポツンポツンと落ちてきました。

 コータは、しかたがなく、白いフクロウが棲む大きな木を目指して、道を歩きだしました。
 いろいろなことがありすぎて、何もちゃんと考えられないまま、ただ歩いて行きました。
 きのうよりも、荷物がすごく軽くなったからか、脚はどんどん前へ進みました。コータは休みもせずに歩き続けました。
 ただ、だんだん気もちが暗くなってきて、泣きたくなってきました。

 とうとう、雨がはげしく降りだしました。
 コータは、近くの大きな木の下に逃げ込みました。木の幹の近くでは、雨は落ちてきませんでした。
 身体全体が少し濡れていて、寒くなってきたので、コータは毛布を頭からかぶって、顔だけを出して、木の根方に腰を下ろしました。
 雨は、すぐに小降りになりました。
 コータは、チーズをナイフでけずりとりながら、少しずつ食べましたが、なかなかお腹がいっぱいになりませんでした。
 でも、これから先のことを考えて、食べるのをやめました。
 雨は、もうやんでいました。

 コータは、きょうあったことを思い出しながら、いろいろと考えていました。
(ボクは、幸せを感じたことがなかったんだ)
(どうしたら幸せを感じられるのだろう?)
(そもそもボクは幸せなんてもっていないんじゃないか)
(みんなはいろんな幸せをもっているんだろうなぁ)
(あのおじいさんなんて、あんなにたくさんの幸せのリンゴをもっていた)
(“金のモージャ”のおじさんが、あのおじいさんは“幸せのモージャ”だって言ってたな)
(“モージャ”って、何かにとりつかれて、この森から帰れなくなってしまった人だって、ホープくんが言ってた)
(“幸せのモージャ”は、幸せにとりつかれてしまったってこと? あのおじいさんはあんなに幸せをもっているのに)
 そのうちにあたりが暗くなってきました。

 コータは、きょうはこのままここで寝ることにして、外したベルトにナイフで四つめの×印をつけました。
 コータは毛布にくるまって横になりましたが、なかなか寝つくことができませんでした。

 次の朝、コータはお腹がすいてしかたがなくて、目が覚めてしまいました。
 三分の一ぐらいになったチーズを半分に切って、半分を食べてから、残り半分をリュックサックにしまうと、白いフクロウが棲む大きな木を目指して歩きだしました。

 しばらく歩くと、きれいな池がありました。池の中には、所々に薄紅色の蓮の花が咲いていて、水面には水鳥が浮かび、水中にはコイが泳いでいました。
 池につきだした岸辺にあるベンチに一人の女の人が座っていました。
 そこへ、太ったおじさんが歩いてきて、コータに聞こえるように言いました。
「また、あのベンチに座ってためいきついているよ」
「あの女の人は、どうかしたんですか?」
「きれいなオシドリを見てうらやましくてしょうがないんだ。あの女は“美のモージャ”で、ずっと、白いフクロウにきれいになる魔法を教えてもらうとしているんだ。でも知ってるかい? あのきれいなのはオスなんだよ。あっちにいる灰色と茶色が混じったようなのがメスなんだ。まぁどうでもいいけど、早くあのベンチを空けてくれないかなー」と言い、太ったおじさんは歩いて行ってしまいました。
「ふーん。“美のモージャ”か。いろんなモージャがいるんだなぁ」と、コータはつぶやきました。
 コータは草の上に座って、リュックサックからチーズを取り出し、ナイフで半分に切って、半分だけ食べましたが、あっというまになくなってしまって、お腹はすいたままでした。
 それでも、しかたなく、また歩き出しました。

 コータは、それからはずっと、(お腹がすいた、お腹がすいた)と思いながら歩いていました。
 生まれてから今までに、こんなにお腹がすいたことはありませんでした。
 だんだん元気もなくなってきて、歩くのもトボトボとおそくなってしまいました。
 コータは、ふと、(もうダメかなー)と思うことがありましたが、そのたびに(まだチーズは残ってるんだ)と思い直しました。
 それでも少し行くと、疲れて歩くのがきつくなり、コータは道のわきに腰を下ろしました。
 一人でじっとしていると、つらいことばかり考えてしまうので、
「ホープくーん!」と、コータは空に向かって呼びました。
 すると、上のほうから「ハオハオ」という声がして、どこからともなくホープが飛び降りてきて、コータの目の前に立ちました。

「ハオハオ。何か聞きたいことがありますか?」
「どうして“モージャ”はこの森から帰れなくなってしまうんですか?」
「ハオハオ。その理由は二つあります。一つは白いフクロウに魔法を教えてもらえないからで、もう一つはあきらめきれないからです。魔法を教えてもらえなかったら、あきらめて帰ればいいのですが、心が何かにとりつかれてしまっているから、あきらめきれずに何度でも白いフクロウの所に行くのです」

「どうして白いフクロウは魔法を教えてくれないんですか?」
「ハオハオ。それはですね、白いフクロウはその人が本当に幸せになれる魔法しか教えてくれないのです。たとえば、あの“金のモージャ”は、最初はいくらでもお金を出せる魔法を教えてくれるように白いフクロウに頼みました。でも、白いフクロウは『その魔法を教えても、お前は幸せになれない』と言って、魔法を教えなかったのです。そのあとも、あの人はギャンブルに勝つ魔法とか、宝くじが当たる魔法とか、未来を予測できる魔法とか、お金を手に入れるための魔法を教えてくれるように頼んだのですが、ぜんぶ白いフクロウにことわられてしまったのです」

「お金がたくさんあれば、幸せになれるんじゃないんですか?」
「ハオハオ。そうとは限りません。では、お金持ちの人はみんなが幸せだと思いますか?」
「そうじゃないんですか?」
「ハオハオ。お金持ちの人でも、幸せを感じられない人はたくさんいます。不幸な思いをしている人もいます。もちろん、幸せに暮らしている人もいますけど。だから、お金がたくさんあれば幸せになれるとは限らないのです。あの“金のモージャ”は、お金がたくさんあってもそれだけでは幸せにはなれないのでしょう。白いフクロウにはそれがわかるのです」

 コータは、また歩きだしました。
 歩きながら“幸せになれる魔法”について考えました。
(お金がたくさんあっても、幸せになれるとは限らないんだ)
(自分が本当に幸せになれる魔法じゃないと、白いフクロウは教えてくれないんだって)
(ボクが本当に幸せになれる魔法って、どういう魔法なんだろう?)
“幸せになれる魔法”について考えていたら、お腹がすごく減っていることがそんなにつらく感じませんでした。
 そのうちに、陽が暮れてきました。
 コータは、眠りやすそうな平らで草のはえた場所を探し、毛布をしいて座りました。ベルトを外し、ナイフで五つめの×印を入れました。

 それから、自分の手の平ぐらいの大きさのチーズを、ナイフで半分に切りました。その半分を食べ、水筒の水をいっぱい飲みました。
 残ったチーズをリュックサックの中にしまおうと思っていたのですが、手に持ったチーズを見ているうちに我慢できなくなって、食べてしまいました。
「あーあ、これで、まだチーズは残っている、って思えなくなっちゃった」とコータはつぶやきました。
 しかたがなく、コータは毛布にくるまって横になりました。できるだけ、自分が幸せになれる魔法について考えようとしましたが、「グーー」とお腹が鳴いて、考える邪魔をしました。
(もうダメかなー)と思いました。

 やっと朝になりました。
 コータは、夜中にお腹がすいて何度も目が覚めてしまっていたのでした。
 少し明るくなると、じっとしていられなくなって、起きだしました。
 もうお腹には何も入っていないはずでしたが、まだ立ち上がることはできたし、少しは歩けそうでした。
 コータは水筒の水を飲みほすと、リュックサックを背負って歩きだしました。
(とにかく、行けるところまで行こう)と思いました。

 少し行くと、道の上に赤いものが落ちているのが見えました。近づくと、それはリンゴでした。コータが拾い上げると、“風を感じる幸せ”と書いてある幸せのリンゴでした。
 コータは驚きましたが、何も考えずに赤いリンゴにかじりつきました。リンゴの甘さが口の中にじわーと広がってきました。コータは、夢中になってリンゴを食べました。こんなにおいしかったのは、生まれてはじめてのような気がしました。
 リンゴを食べ終わると、もうお腹はぜんぜんすいていませんでした。

 コータはまた歩きだしました。
 そして、心の中がとてもおだやかで、ラクな感じがしたのに驚きました。
(お腹がすいてないって、こんなにラクなんだ)と思いました。
 すると、涼しい風が吹いてきて、気もちよく感じられました。
(これが“風を感じる幸せ”なんだろうか? でも、こんなのが幸せなんて思えないよ)とコータは思いました。
 コータは、急に元気になって、どんどん歩いて行きました。
(あの幸せのリンゴは、誰が落としていったんだろう?)と、ふと思いました。

 コータが森の中をしばらく行くと、突然、広場が現れました。
 そこには木がはえていないで、芝生におおわれていました。
 空から見たら、濃い緑の森の中にポッカリと、丸い明るい緑の広場があいているように見えるのでしょう。

 広場の中で、三人の人が走り回っていました。“鬼ごっこ”をしているようでした。
 今つかまって“鬼”になった男の人が、コータに近づいてきて、言いました。
「キミもいっしょに遊ばないかい?」
「ボクは、いいです」
 その40歳ぐらいの身体のがっしりした男の人は、
「じゃあ、森の中で“かくれんぼ”しないかい?」と、さらに誘いましたが、
「ボク、急いでいるので」と、コータはことわりました。
「あ、そう」と言うと、男の人は残りの若い男女の所へ行き、何か話をしてから三人で森の中に入って行きました。

 コータが立ったまま三人の後ろ姿を見ていると、近くで芝生に座って本を読んでいた男の人が立ち上がって、コータに近づいてきて言いました。
「ことわってよかったよ。あの“遊びのモージャ”に一度つかまると、なかなか放してくれないんだ」
「ふーん、“遊びのモージャ”か」
「あいつがいるとうるさくてしょうがないんだ。静かになってよかったよ」
 そう言うと、その男の人は元の場所に戻って座り、また本を読み始めました。
 コータは、少し離れた所に座って、ちょっと休むことにしました。
 芝生が心地よかったので、寝ころがると、青い空に白い雲が一つ、ぽっかりと浮かんで、ゆっくりと流れていくのが見えました。
 コータは、いつのまにか眠ってしまいました。

 強い風が吹いてきました。
 目をあけると、コータは大きくなったホープくんに乗って、空を飛んでいました。
 下には“ハオハオの森”が見え、ホープくんは森の中のいちばん大きな木を目指してまっすぐに飛んで行きました。
 大きな木の太い幹には大きな穴があいていて、ホープくんはその中に飛び込みました。大きな木の中には、裁判所のような部屋があって、大きな机の所に白いフクロウがいました。
 床に着地すると、コータはホープくんの背中から降りて、白いフクロウの前に歩いて行きました。

 白いフクロウがコータに言いました。
「好好、よく来たな。お前が望む魔法は何だ」
「ボク、幸せになりたいんです。幸せになれる魔法を教えてください」
「好好。ハオハオの魔法はすべて幸せになれる魔法だ。自分が幸せになれる望みをもっと具体的に言え」
 コータは、何も言えずに困ってしまいました。どうしたら自分が幸せになれるかがわからなかったからです。

 急にお腹がすいてきて、コータが芝生の上で目を覚ましたのは、もう次の日の朝でした。
 コータは、あわててリュックサックを背負うと、白いフクロウが棲む大きな木を目指して歩きだしました。
 でも、もうお腹はペコペコです。
 コータは、また(お腹がすいた。お腹がすいた)としか考えられなくなってしまいました。
 そして、歩くのもつらくなってきて、(もう“ギブアップ”しかないのかなぁ)と思いました。

 ところがその時、少し先の道の上に赤いリンゴが落ちているのが見えました。
 コータが走っていってリンゴを拾い上げると、“散歩を楽しめる幸せ”と書いてありました。
 コータは迷わず、その赤いリンゴを食べました。
 幸せのリンゴを食べ終わると、もうお腹はすいていませんでした。

 コータは、また元気になって歩きだしました。きのうの分も取り返そうと急いで歩きました。
 コータは、ふと思いました。
(元気に歩けるようになってよかった。でも、散歩を楽しむ幸せなんて、ぜんぜんわからないよ。散歩なんてただ歩いているだけじゃないか)
 そのあとコータは、自分がどうしたら幸せになれるのか、白いフクロウにどんな魔法を教えてもらおうかを考えながら歩きました。

 しばらく歩くと、道の先にまた大きな建物が見えてきました。
 コータがその建物の前に立つと、柱に“不幸リンゴ配給所”と書いてありました。


   

『幸せの魔法』目次

ハオハオの森

幸せのホームページ